■アスベスト問題
アスベスト問題は、石綿(アスベスト)による塵肺、肺線維症、肺癌、悪性中皮腫(ちゅうひしゅ)などの人体への 健康被害問題のことを指します。 アスベストは、耐熱性、電気絶縁性、保温性に優れ、断熱材、電気絶縁材、ブレーキライニング材などに用いられてきました。しかし、高濃度長期間暴露による健康被害リスクが明らかになり、アスベスト含有製品生産や建設作業に携わっていた従事作業者の健康被害が問題となってきました。 日本においては、アスベスト含有製品生産や建設作業に携わっていた作業者の健康被害に対する補償が行われてきましたが、2005年にアスベスト含有製品を過去に生産していた工場近辺における住民の健康被害が、それに対する救済措置の不備とともに問題として報道されました。それに対応する形でアスベストによる健康被害に対する医療費等の支給など救済措置のための法律が制定されることになりました。また、吹きつけアスベスト、アスベストを含む断熱材などが用いられた建設物から、解体時にアスベストが発生することについても問題とされることがあります。空気中の石綿(アスベスト)は微量であれば問題ではありません。微量のアスベストは世界中の空気中に存在し人類は毎日アスベストを吸って生活しているともいえます。しかし、作業や工事など高濃度のアスベストが飛び散ることによって、長期にわたって特定の作業者や住民が大量のアスベストを吸い込むことが問題となっているのです。 2005年にはアスベスト原料やアスベストを使用した資材を製造していたニチアス、クボタで製造に携わっていた従業員やその家族など多くの人間が死亡していたことが報道されました。
■アスベストの分類について
(1)飛散性(レベル1,2)、非飛散性(レベル3)
・飛散性アスベスト
一般的には発塵性の著しく高い吹付けアスベスト等をレベル1、アスベスト保温材、耐火被覆材等の発塵性の高いものをレベル2とし、容易に大気中に飛散するおそれのある飛散性アスベストとして扱います。
・非飛散性アスベスト
飛散性アスベストに該当しないもので、アスベスト成形板等、そのままでは発塵性が比較的低いと考えられるものが非飛散性アスベスト(レベル3)とされています。
(2)廃石綿、廃石綿等
廃棄物処理法において特別管理産業廃棄物である「廃石綿等」の定義は以下の通り (令第2条の4第5号ヘ、規則第1条の2第7項)
廃石綿等とは、廃石綿及び石綿が含まれ、若しくは付着している産業廃棄物のうち、飛散するおそれがあるものとして次に掲げる事業等により発生したものを指します。
- 石綿建材除去事業(建築物その他の工作物に用いられる材料であって石綿を吹き付けられ、又は含むものの 除去を行う事業をいう。)により生じたもの
・吹付け石綿、・石綿保温材、・けいそう土保温材、・パーライト保温材
・人の接触、気流及び振動等により石綿が飛散するおそれのある保温材、断熱材及び耐火被覆材
・石綿建材除去事業において用いられ、廃棄されたプラスチックシート、防じんマスク、作業衣その他の用具又は器具であって、石綿が付着しているおそれのあるもの
- 大気汚染防止法に規定する特定粉じん発生施設が設置されている事業場において生じた石綿及び当該事業場 において用いられ、廃棄された防じんマスク、集じんフィルターその他の用具又は器具であって、石綿が付着しているおそれのあるもの
- 輸入されたもの(事業活動に伴って生じたものに限る)
また、廃石綿等の処理基準としては以下が定められています。
・中間処理:廃石綿等の処分又は再生の方法は、廃石綿等を溶融設備を用いて石綿が検出されないよう溶融する方法又は無害化処理(法第 15 条の4の4第1項の認定を受けた者が当該認定に係る処分を行う場合に限る。)としています。
・埋立処分基準
1. 溶融又は無害化処理した場合 : 通常の産業廃棄物の処分基準が適用される。
2. 廃石綿等を直接埋立処分する場合 : 大気中に飛散しないように、あらかじめ、耐水性の材料で二重に梱包 するか又は固型化し、産業廃棄物処理施設である最終処分場のうちの一定 の場所において、かつ、当該廃石綿等が分散しないように埋立処分する。
■アスベストの分析について
大防法及び石綿則において、石綿含有の有無が不明な場合は分析を行うことが義務づけられています(石綿含有ありとみなす場合を除く)。 分析方法は、日本工業規格(JIS)A 1481 規格群をベースとし、その実施に当たっては、厚生労働省の「石綿則に基づく事前調査のアスベスト分析マニュアル」の記載内容を優先する必要がある点に留意です。 これに基づく石綿分析の流れは、次のとおりとなります。まず、建材中の石綿の含有の有無を調べるための定性分析を行います。定性分析で石綿が含有していると判定された場合は、含有率を調査するための定量分析を行い、建材中の石綿の含有率(0.1%以下か否か)を確定させます。ただし、定性分析で石綿ありと判定された場合において、定量分析を行わずに、石綿が 0.1%を超えているとして扱うことも可能です。なお、吹付け材については、ばく露防止措置を講ずる際の参考とするための含有率を調査するための定量分析を行うことが望ましいとされています。なお、定性分析の方法として、①偏光顕微鏡法、②X 線回折分析・位相差分散顕微鏡法、③電子顕微鏡法の3種類があるが、このうち③の電子顕微鏡法は、①または②を補完するものであり、③単独で石綿なしの判定を行う方法ではありません。
■アスベスト処理基準
① 収集・運搬(令第6条の5第1項第1号)
「運搬車及び運搬容器は、廃棄物が飛散し、及び流出し、並びに悪臭が漏れるおそれのないものであること」等、特別管理産業廃棄物に共通の基準が適用される。
② 中間処理(令第6条の5第1項第2号ト)
・廃石綿等の処分又は再生の方法は、廃石綿等を溶融設備を用いて石綿が検出されないよう溶融する方法又は無害化処理(法第15条の4の4第1項の認定を受けた者が当該認定に係る処分を行う場合に限る。)としている。
・特別管理産業廃棄物の処理施設において、適正な処分又は再生を行うためにやむを得ないと認められる期間を超えて保管を行ってはならない。
- 埋立処分基準
- 溶融又は無害化処理した場合
通常の産業廃棄物の処分基準が適用されます。
・埋立処分の基準:溶融又は無害化処理(溶融の場合)の方法により生じたばいじんについては、溶融若しくは無害化処理の方法により処理され、又は石綿が飛散しないようセメント固化されていること
・海洋投入処分:禁止
- 廃石綿等を直接埋立処分する場合
特別管理産業廃棄物としての処分基準が適用されます。
■石綿含有廃棄物等の定義
「石綿含有廃棄物等」とは、「廃石綿等」及び「石綿含有廃棄物」のことを示します。「廃石綿等」及び「石綿含有廃棄物」の定義の詳細は、以下に示すとおりとなります。
- 廃石綿等の定義(規則第1条の2第9項)
① 建築物その他の工作物(以下「建築物等」という)に用いられる材料であって石綿を吹き付けられたものから石綿建材除去事業により除去された当該石綿
② 建築物等に用いられる材料であって石綿を含むもののうち石綿建材除去事業により除去された次に掲げるもの
イ.石綿保温材
ロ.けいそう土保温材
ハ.パーライト保温材
ニ.人の接触、気流及び振動等によりイからハに掲げるものと同等以上に石綿が飛散するおそれのある保温材、断熱材及び耐火被覆材
③ 石綿建材除去事業において用いられ、廃棄されたプラスチックシート、防じんマスク、作業衣その他の用具又は器具であって、石綿が付着しているおそれのあるもの
④ 特定粉じん発生施設が設置されている事業場において生じた石綿であって、集じん施設によって集められたもの
⑤ 特定粉じん発生施設又は集じん施設を設置する工場又は事業場において用い
られ、廃棄された防じんマスク、集じんフィルタその他の用具又は器具であっ
て、石綿が付着しているおそれのあるもの
2. 石綿含有廃棄物の定義
石綿含有廃棄物とは、次に掲げる①及び②を指します。
① 石綿含有一般廃棄物 (規則第1条の3の3)
工作物の新築、改築又は除去に伴って生じた一般廃棄物であって、石綿をその 重量の 0.1%を超えて含有するもの
② 石綿含有産業廃棄物(規則第7条の2の3)
工作物の新築、改築又は除去に伴って生じた廃石綿等以外の産業廃棄物であっ て、石綿をその重量の 0.1%を超えて含有するもの
■廃棄物処理について
1. 排出事業者による処理
① 廃石綿等(法第 12 条の2第1項及び第2項)
排出事業者は、自らその廃石綿等の運搬又は処分を行う場合には、政令で定める 特別管理産業廃棄物の収集、運搬及び処分に関する基準(以下「特別管理産業廃棄 物処理基準」という。)に従わなければならない。
② 石綿含有産業廃棄物(法第 12条第1項及び第2項)
排出事業者は、自らその石綿含有産業廃棄物の運搬又は処分を行う場合には、政令で定める産業廃棄物の収集、運搬及び処分に関する基準(以下「産業廃棄物処理 基準」という。)に従わなければならない。
- 処理業者への委託
① 廃[y1] 石綿等(法第 12 条の2第5項及び第6項、令第6条の6)
排出事業者は、廃石綿等の運搬又は処分を他人に委託する場合には、令第6条の 6で定める委託基準に従い、運搬については特別管理産業廃棄物収集運搬業者に、処分については特別管理産業廃棄物処分業者にそれぞれ委託しなければならない。
② 石綿含有産業廃棄物(法第 12 条第5項及び第6項、令第6条の2)
排出事業者は、石綿含有産業廃棄物の運搬又は処分を他人に委託する場合には、令第6条の2で定める委託基準に従い、運搬については産業廃棄物収集運搬業者に、その処分については産業廃棄物処分業者にそれぞれ委託しなければならない。
廃石綿等及び石綿含有産業廃棄物の処理は、その排出事業者に処理責任があります。そのため、排出事業者がその廃石綿等又は石綿含有産業廃棄物の処理を自ら行わず他人に委託 する場合には、法第 12 条の2第項又は5法第 12 条第5項に従わなければなりません。ここでいう石綿含有産業廃棄物の排出事業者とは、元請業者を指します。
また、排出事業者は、廃石綿等又は石綿含有産業廃棄物の処理を他人に委託する場合には、令第6条の6又は令第6条の2で定める基準に従い、その運搬については、特別管理産業廃棄物収集運搬業者その他規則第8条の14で定める者又は産業廃棄物収集運搬業者その他規則第8条の2の8で定める者に、その処分については、特別管理産業廃棄物処分業者その他規則第8条の15で定める者又は産業廃棄物処分業者その他規則第8条の3で定める者に、それぞれ委託しなければならないことを定めています。(法第 12 条第5項及び第6項、法第 12 条の2第5項及び第6項)法第 12 条の2第5項の規定に違反して廃石綿等の処理を他人に委託した者は、法第 25 条により5年以下の懲役又は千万円以下の罰金に処せられます。
廃石綿等(令第6条の6)又は石綿含有産業廃棄物(令第6条の2)の委託基準は次のように定められています。
1. 委託相手の選定
① 廃石綿等
他人の特別管理産業廃棄物の運搬又は処分若しくは再生を業として行うことができる者であって、委託しようとする特別管理産業廃棄物の運搬又は処分若しくは再生 がその事業の範囲に含まれる者に委託すること。
② 石綿含有産業廃棄物
他人の産業廃棄物の運搬又は処分若しくは再生を業として行うことができる者であって、委託しようとする産業廃棄物の運搬又は処分若しくは再生がその事業の範囲に含まれるものに委託すること。
2. 委託契約の制限
委託契約は、書面により行い、当該委託契約書には、次に掲げる事項についての条項が含まれていることとされています。
① 委託する特別管理産業廃棄物又は産業廃棄物の種類及び数量
② 特別管理産業廃棄物又は産業廃棄物の運搬を委託するときは、運搬の最終目的地の所在地
③ 特別管理産業廃棄物又は産業廃棄物の処分又は再生を委託するときは、その処分又は再生の場所の所在地、その処分又は再生の方法及びその処分又は再生に係る施設の処理能力
④ 規則第8条の4の2に定める事項
3. 文書での通知
さらに特別管理産業廃棄物については、令第6条の6において、特別管理産業廃棄物の運搬又は処分若しくは再生を委託しようとする者に対し、あらかじめ、次の事項を文書で通知することを定めている。
・委託しようとする特別管理産業廃棄物の種類、数量、性状及び荷姿
・当該特別管理産業廃棄物を取り扱う際に注意すべき事項