■アスベスト調査に必要な資格について
建築物などにアスベストが含まれているか否かの調査には、調査の資格が必ず必要ではありません。ただ、独自の調査では見落とされる箇所があったり、アスベストを吸い込んでしまうなどの危険性があるため、資格取得者のいる業者に調査の依頼をするのが安心です。アスベストに関する資格例としては、以下があります。
・石綿作業主任者(厚生労働省)
・アスベスト診断士(一般社団法人 JATI協会)
・建築物石綿含有建材調査者(国土交通省)
・高所作業者運転特別教育(厚生労働省)
・作業環境測定士(厚生労働省)
■石綿作業主任者(厚生労働省)について
「石綿作業主任者」とは、労働安全衛生法に定められた作業主任者のひとつであり、国家資格にあたります。石綿作業主任者技能講習を修了した者の中から事業者により選任され、主任者となるための技能講習を修了した者すなわち資格取得者のこと、あるいは資格そのものを指すこともあります。建設資材などとしてよく使われた「石綿」(アスベスト)は、近年、その優れた特性の一方で人体に健康被害をおよぼすことから2006年に石綿の製造が禁止されました。また、その厳格化の一環として同年に新設された石綿作業主任者は、厚生労働省が認定する国家資格となっています。石綿による健康被害の防止のために現場で指揮・監督をおこない、労働者の衛生の確保にも配慮するという重要な役割です。石綿取り扱い作業を行う事業者には、必ず石綿作業主任者技能講習の修了者から石綿作業主任者を選任して、職務を遂行させることが求められます。主な仕事は、粉塵を作業員が吸入するのを防止するために、作業方法の決定、局所排気措置などの予防装置の点検、保護具の確認、作業指揮、退避指示を行うことなどです。有害な石綿を使用している建築物の解体作業に係る作業を安全に行うためにも石綿作業主任者は欠かせない存在です。危険な石綿を扱うため、責任が非常に大きい仕事であり、一定の需要があります。この資格は各都道府県労働局安全課または労働基準協会連合会が実施する2日間の講習と修了考査により取得できます。
受験資格については、不問ですが、18歳未満は主任者に選任できないため、18歳以上とする場合もあります。講習内容は、「健康障害及びその予防措置に関する知識」「作業環境の改善方法に関する知識」「保護具に関する知識」「関係法令」となります。試験はなく、講習を受けることで資格を取得できます。願書受付期間や試験日程、受験地に関しては全国各地の教習機関によって異なります。受験料も各地によってバラつきがありますが、約11,400円前後が一般的です。
■アスベスト診断士(一般社団法人 JATI協会)について
アスベスト診断士養成研修は、「①石綿有無の調査の基本がわかる者の養成、②石綿有りの場合の対応策を提示できる者の養成、③石綿処理工事の監査ができる者の養成」を目的に、2005年に発足し、15年を迎えました。「①石綿有無の調査の基本がわかる者の養成」については、2018年10月に、「石綿に関し一定の知見を有し、的確な判断ができる者」として、厚生労働省、環境省、国土交通省の三省により、「建築物石綿含有建材調査者登録制度」が発足しました。受講資格については、以下いずれかに該当する人とされています。
- 石綿作業主任者技能講習修了者又は特定化学物質等作業主任者技能講習修了者(平成18年3月まで)
- 第1種の作業環境測定士
- 建築士法に基づく、一級建築士及び二級建築士の免許登録者
- 建設業法に基づく、一級施工管理技士(建築施工管理)の資格を有する者
- 労働安全衛生法に基づく、労働衛生コンサルタントの資格を有する者
- アスベストを含むものの除去に関し、3年以上の実務経験をもつ者
- アスベスト有無の事前調査に関し、1年以上の実務経験をもつ者
※①~⑤の資格については申込時に「資格証明の写し」を添付する必要があります。
※⑥~⑦の資格については、申込時に職場上司などの業務経験証明が必要です。
受講料は、テキストと昼食代込みで一般12万円、一般社団法人JATI協会の会員は10万円となります。
研修内容については、「基礎編」「調査・診断編」「石綿処理編」を3日間で研修します。全研修内容については、試験を行い、試験の総得点が70%以上かつ基礎編、調査・診断編および石綿処理編に関する出題の得点がいずれも60%以上の場合に合格となります。
「基礎編」は、「石綿の基礎知識」「石綿の健康影響」「関係法令」「建築物に関する基礎知識」で構成されています。
「調査・診断編」は、「アスベスト含有建材に関する基礎知識(サンプル研修含む)」「調査の手順および調査方法(実習含む)」「報告書の作成方法(実習含む)」「分析に関する基礎知識(実習含む)」で構成されています。
「石綿処理編」は、「飛散防止対策」「廃棄物の処理方法」「保護具の正しい使い方」「建築リサイクルに関する知識」となります。
■建築物石綿含有建材調査者(国土交通省)について
国土交通省では、建築物の通常の使用状態における石綿含有建材の使用実態を的確かつ効率的に把握するため、中立かつ公正に正確な調査を行うことができる建築物石綿含有建材調査者の育成を図ることを目的として、平成25年7月に「建築物石綿含有建材調査者講習登録規程」を定めています。建築物石綿含有建材調査者講習は、厚生労働省・国土交通省・環境省告示第1号(平成30年10月23日)に基づく講習です。講義を受講後、修了考査に合格した受講者には、修了証明書を交付し、調査者として資格が付与されます。大気汚染防止法及び石綿障害予防規則で定められた、建築物の解体・改修などの前に実施する調査については、建築物石綿含有建材調査者資格を有する者が行わなければならず、」2023年10月1日以降は、同資格者による調査が義務付けられます。
受講者の資格としては、「建築に関する知識及び経験を有する者」とされており、「大学や短期大学等において建築学等の過程を修めて卒業した後、建築に関し一定以上の実務経験を有する者」や「建築や建築行政に関し一定以上の実務経験を有する者」等が挙げられます。
講習機関の登録要件としては、「登録規定に定める適切な講習が行われること」「一定の資格を有する講師が講習に従事すること」「一定の中立性があること」等が挙げられます。
講習の内容は以下全5講座11時間と実施研修と修了考査で構成されています。
- 建築物石綿含有建材調査に関する基礎知識
- 石綿含有建材の建築図面調査
- 現場調査の実際の留意点
- 建築物石綿含有建材調査報告書の作成
- 成形板等の調査
実施研修については、石綿含有建材が用いられている実際の建築物にて、講習が実施されます。また、修了考査は、筆記試験と口述試験となります。
■高所作業者運転特別教育(厚生労働省)
高所作業車については、高所における工事、点検、補修などの作業に使用される機械であり、作業床及び昇降装置その他の装置により構成され、当該作業床が昇降装置その他の装置により、上昇、下降などをする設備のうち、動力を用い、かつ、不特定の場所に自走することができるもので作業床高さが2メートル以上のものをいいます。作業床の高さが10m未満の高所作業車を操作するには、高所作業車運転特別教育を修了することが義務付けられております。10m以上上昇する高所作業車は技能講習が必要となります。
受講資格については、特にありませんが、車を運転できることとして「普通自動車以上の運転免許を有する者」となります。
講習内容については、1日学科講習と1日実技講習にて構成されており、だいたい2つ合わせて1日で修了できることが多いです。学科講習については、「高所作業車の運転に関する知識」「高所作業車の作業に関する装置の構造、取扱の方法に関する知識」「原動機に関する知識」「関係法令」が主な内容となります。実技講習については、各事業所で実施、または実技付きコースにて実施されます。
■作業環境測定士(厚生労働省)
作業環境中に有害な因子が存在する場合には、その有害な因子を、除去するか、ある一定の限度まで低減させるか、またはこれらの対策だけでは有害な因子への労働者のばく露を十分な程度まで低減させることができない場合には、保護具や保護衣等の個人的なばく露防止のための手段を利用すること等によって、その有害な因子による労働者の健康障害を未然に防止することが必要です。作業環境中に存在することがある有害な因子としては、有機溶剤・鉛およびその化合物・特定化学物質等の有害な化学物質、じん肺の原因となる粉じん等の有害な物質のほか、電離放射線、電磁波、有害光線、騒音、振動、高温・低温、高湿度等の物理的因子等もあります。また、有害な化学物質等の中には感作性(人に感作[ある抗原物質に対して過敏な状態にすること]を生じさせるおそれのある性質のこと)があるものもあり、これらの感作性のある化学物質等についての作業環境管理には、その化学物質等に過敏な反応を起こすことのある労働者についての特別の注意が必要です。「作業環境管理」を進めるためには、作業環境中にこれらの有害な因子がどの程度存在し、その作業環境で働く労働者がこれらの有害な因子にどの程度さらされているのかを把握しなければなりません。この把握をすることを広い意味で作業環境測定といっています。作業環境測定士の資格取得にあたっては、「国家資格の合格」「登録講習の修了」「作業環境測定士の登録」が必要となります。作業環境測定士の国家試験については、デザイン・サンプリング、分析(解析を含む。)のすべてを行うことができる第一種作業環境測定士と、デザイン・サンプリング、簡易測定器による分析業務のみができる第二種作業環境測定士の二種類があります。作業環境測定士の国家試験は、取得済みの資格により一部または全部の試験が免除されます。
第二種作業環境測定士試験には、「労働衛生一般」「労働衛生関係法令」「デザイン・サンプリング」「分析に関する概論」の4科目の受講が必要です。ただし、第1種衛生管理者または衛生工学衛生管理者の資格(実務経験必要)を持っていて法令に定める試験科目一部免除講習を受ける場合には、4科目のうちの一部の科目の試験が免除されます。また、環境計量士(濃度関係に限る)の資格を持っていて法令に定める試験科目免除講習を受ける場合には、「選択科目」のうち放射性物質以外の科目の試験が免除されます。第二種作業環境測定士については、指定作業場(粉じん(石綿等を含む)、放射性物質、特定化学物質、金属、有機溶剤に係る作業場)のすべてについて、作業環境測定のための「デザイン」「サンプリング」を行うことができますが、「分析」については、「検知管を用いた一定の有機溶剤または特定化学物質の測定とデジタル粉じん計による粉じんの測定」以外はできません。
第一種作業環境測定士試験については、次の5種類があり、試験は選択科目が別になっています。
- 鉱物性粉じん(石綿等を含みます)に係る第一種作業環境測定士
- 放射性物質に係る第一種作業環境測定士
- 特定化学物質(金属であるものを除く)に係る第一種作業環境測定士
- 金属類(鉛および金属である特定化学物質)に係る第一種作業環境測定士
- 有機溶剤に係る第一種作業環境測定士
試験科目は、粉じん、有機溶剤など自分が資格を取得しようとする種別についての「選択科目」のほか、第二種作業環境測定士が受験する科目と同じ4科目(労働衛生一般、労働衛生関係法令、デザイン・サンプリング、分析に関する概論)を受験することになります。第一種作業環境測定士については、指定作業場(粉じん、放射性物質、特定化学物質、金属類、有機溶剤に係る作業場)のすべてについて、作業環境測定のための「デザイン」「サンプリング」および「検知管を用いた一定の有機溶剤または特定化学物質の測定とデジタル粉じん計による粉じんの測定」が可能(第二種作業環境測定士ができること全て)となります。また、第二種作業環境測定士ができることに加えて、特定化学物質に係る分析(機器分析等、作業環境測定基準に規定する特定化学物質のすべての分析法による分析)が可能です。