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アスベスト関連の過去の事故について

アスベストによる被害者の多くは、アスベスト製造工場の粉塵の中で長期間労働した人やその家族、またアスベストを取り扱う工場の近くに在住していた人です。アスベストの製造が禁止された現在の日本ではこの問題は無くなったと言われていますが、残された大きな問題は、古い建造物の中に大量にアスベストが含まれ、将来解体するときアスベスト粉塵を長期間吸う労働者に健康被害が発生するということです。アスベスト製品がほぼ全廃された現在においても、吹きつけアスベスト、アスベストを含む断熱材などが用いられた建設物から、解体時にアスベストが飛散することについても問題とされています。アスベストは人の髪の毛の直径よりも非常に細く、肉眼では見ることのできないきわめて細い繊維からなっています。そのため、飛散すると空気中に浮遊しやすく、吸入されて人の肺胞に沈着しやすい特徴があります。吸い込んだアスベストの一部は異物として痰の中にまざり体外へ排出されます。しかし、アスベスト繊維は丈夫で変化しにくい性質のため、肺の組織内に長く滞留することとなります。この体内に滞留したアスベストが要因となって、肺の繊維化やがんの一種である肺がん、悪性中皮腫などの病気を引き起こすことがあります。このアスベストによる死亡事故は多数報告されており、関係する業者は多大な賠償を行うという事例が複数あります。その中で、過去に起きたアスベストに関する事件の事例の一部を掲載します。

■クボタ・ショック

平成17年(2005年)6月29日、大手機械メーカーであるクボタが、アスベストを取り扱う工場で働いていた社員や退職者、請負会社の従業員、地域住民の間で、中皮腫など石綿関連疾患の患者が多数発生し、合計79人が死亡、現在療養中の退職者も18人に及ぶことを発表した。(この出来事を「クボタ・ショック」という)クボタ・ショック前は、アスベストが肺がんなどを引き起こし、死に至らしめるものであることは、社会の中でさほど浸透していなかった。しかし、クボタ・ショックを受けて、実際にアスベストを取り扱っていた労働者だけでなく、周辺住民にも被害が及ぶことが明らかになり、アスベスト禁止の風潮がより強まることになった。この事件により、クボタは被害者へ総額32億円の損害賠償金を支払うこととなる。また、工場周辺1km圏内の住民被害者にも労災並みの最高4600万円の救済金を支払うとし、石綿業界最大手のNも、工場周辺400m圏内の住民被害者に最高3000万円の救済金を支払うとした。

■某ブレーキ工場問題

H市の某ブレーキ工場などでアスベスト作業に従事し健康被害を受けた元従業員と死亡した元従業員の遺族ら11人が国を相手取り約1億230万円の損害賠償を求めた訴訟で、国と元従業員ら3人の和解が11日、さいたま地裁(大野和明裁判長)で成立した。

和解したのはいずれも某ブレーキ工場の元従業員で70代の男性2人と死亡した男性の妻。賠償額は大阪泉南アスベスト訴訟の最高裁判決に沿ったもので、1人当たり賠償基準額の半分の550万円に弁護士費用などを加えた額で成立した。

3人はじん肺法に基づく健康管理区分で4段階のうち「管理区分2 合併症なし」に該当。じん肺の所見がない管理区分1に次いで下から2番目の区分で、じん肺の所見が見られ、将来的に健康被害の可能性があるとされる。

■K工業事件

労働者Aは、昭和38年3月、東京都内の高校を卒業し甲社(K工業㈱)に入社、同59年4月に甲社を退職後、乙社(㈱I)に入社、平成8年8月11日死亡退職となった。Aは、平成7年11月頃から、胸痛、咳、微熱等の症状が出て痩せ始め、平成8年、国立がんセンター東病院より悪性胸膜中皮腫に罹患していると診断された。Aは、同年6月、同病院に入院、一旦退院したものの病状が急速に進行、8月1日再入院したが同月11日、死亡した。中央労働基準監督署長は、Aの遺族の請求に基づき、平成11年11月、Aの死亡は業務上の死亡と認定、遺族補償年金、遺族特別年金等の支給を決定した。Aが勤務していた甲社は保温・保冷工事などを、乙社も冷蔵庫およびタンクの保冷工事の設計・施工などをそれぞれ業務内容としていた。Aの遺族は、甲・乙社が取り扱っている石綿(アスベスト)を吸入したため、Aは悪性中皮腫に罹患して死亡したとして債務不履行または不法行為による損害賠償を求めたもので、本判決は、甲社の責任を認め約5700万円余の支払いを命じたが、乙社の責任は認めなかった。

■C電力事件

C電力の火力発電所に勤務していたKさん(当時67)が退職後に悪性中皮腫で死亡したのは、会社がアスベスト(石綿)対策を怠ったためとして、遺族が損害賠償を求めた訴訟は21日、名古屋高裁(岡光民雄裁判長)で、同社が対策を十分に講じなかった点を認めた上で3500万円を支払うことなどで和解が成立した。和解条項には、同社が被害防止のために(1)じん肺法などを順守して対策を講じる(2)従業員と退職者全員に石綿にさらされる可能性のある職種や健康被害危険性を通知することなどが盛り込まれた。昨年7月の一審・名古屋地裁判決は、Kさんが1958年から計33カ月間、発電所内で石綿粉じんにさらされる恐れのある作業に従事したと認定。会社側が安全配慮義務の履行を怠ったと判断して、計3千万円の支払いを命じた。会社側は控訴し、遺族側は請求額を4千万円として付帯控訴。控訴審で高裁が和解を提案していた。Kさんは2005年5月、悪性中皮腫と診断されて、労災認定を受けたが06年9月に死亡した。

■K高架下建物吹付アスベスト事件

大阪府内の近畿日本鉄道(大阪市)の高架下貸店舗でうどん店を経営していた女性(当時83歳)が、2020年6月にがんの一種「中皮腫」で死亡していたことが分かった。女性の長男(62)が15日、大阪市内で記者会見した。同じ高架下で中皮腫にかかり死亡したのは、女性で3人目。長男はK社などに対し、慰謝料など約3600万円の賠償を求めている。長男によると、女性は1970~15年に高架下の貸店舗でうどん店を経営していた。2階建ての1階を店舗、2階を倉庫や休憩所として使っていたが、2階の壁には有害性が強い「青石綿」が吹き付けられ、むき出しだったという。女性は19年12月に胸膜中皮腫と診断され、20年6月に死亡した。長男は「忘れた頃に病気を引き起こすアスベストに恐怖を感じる。同時期に高架下で働いていた方々も同じ環境だった」とし、K社側に注意喚起するよう訴えた。この高架下では、文具店長の男性(当時70歳)が胸膜中皮腫にかかり、04年に死亡。大阪高裁は近鉄の責任を認め、約6000万円の賠償を命じた。15年には喫茶店長だった男性(同66歳)が胸膜中皮腫で亡くなった。遺族は近鉄に損害賠償を申し入れ、金銭的な解決に至っている。大阪府内某所にあるK高架下には、約200メートルの間に約40店舗が並んでいた。アスベスト(石綿)が使われていたこの一角から、2020年6月、店舗経営者としては文具店、喫茶店に続き3人目となる中皮腫の犠牲者が出た。うどん店主の女性(当時83歳)は生前、病床で毎日新聞の取材に「石綿はあったけど、うちは関係ないと思っていた。今にして『爆発的』に危険なものと気付いた」と語り、その約4カ月後、無念の思いを抱えたまま、この世を去った。女性は1970年、この高架下でうどん店を開き、やがて脱サラした夫も加わった。安くておいしいと評判で、常連客から「ママ」「おばちゃん」と親しみを込めて呼ばれていた。05年ごろ、同じ高架下にあった文具店長の男性が、中皮腫にかかり死亡したことを知った。その頃、各店舗2階に吹き付けられていた石綿の除去など対策が取られ、「心配な人は検査を」と呼び掛けられた。うどん店の2階は米や調味料の保管のほか、女性が仮眠や着替えに使うなど頻繁に出入りしていたが「大変なことと思わず、検査は受けなかった」。15年、工事に伴う一斉退去で、45年間愛着のある店を閉めた。19年5月、肺に水がたまり、やがて呼吸も異常に。その年の暮れ、中皮腫と診断された。「それまで石綿のことは何も分からなかった。(2人目となる)喫茶店長が中皮腫で亡くなったのを知ったのも、発病後でした」。うどん店主としての「誇り」を失いたくなかったのか、闘病中は「味が分からなくなるので」と抗がん剤の投与を避けていたという。

■米軍Y基地の石綿被害訴訟

Y基地(神奈川県横須賀市)の日本人元従業員らが、米軍の石綿(アスベスト)粉じん対策が不十分でじん肺になったとして国に損害賠償を求めた訴訟で、原告に支払われた賠償金約7億1600万円のうち約1億9400万円を米側が分担することで合意したことが分かった。基地被害に絡む集団訴訟で、米軍が日米地位協定に基づいて多額の損害賠償を負担するのは異例という。アスベスト訴訟では、02年10月に元従業員9人に計約1億9500万円の損害賠償金の支払いを国に命ずる横浜地裁横須賀支部の判決が確定。2次訴訟は04年11月に21人に計約3億500万円、3次訴訟は今年5月に11人に計約2億1600万円を国が支払う内容の和解が成立した。1次訴訟の賠償金を含め、国がすでに全額を原告に支払っている。1次訴訟で原告になったほかの3人については東京高裁の控訴審判決で時効を理由に敗訴したが、判決は「安全配慮対策を十分行わなかったのは米軍の不法行為」と認定した。在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定の18条は1966年の改定で、米軍の不法行為を原因とする従業員の事故に対する賠償について、日米両国に責任がある場合、両国が均等に負担すると定めている。このため防衛施設庁は昨年12月と今年6月、2次と3次の原告のうち、地位協定が改定された66年以降に当たる26人分の賠償金について、半額の約1億9400万円を在日米軍司令部に請求。7月に同司令部から全額の支払いに同意する文書が届いたという。米軍基地に勤務する日本人従業員は、国が雇用し、米軍が使用者となる。元従業員らの大半は60~70年代に同基地内の艦船修理所で造船工やボイラーマンとして勤務。アスベストは艦船の断熱材や防火材として使われていたという。地位協定に基づく米軍への賠償金の多額請求は、3次にわたる米軍Y基地(東京都)の騒音訴訟で原告住民に支払われた過去の損害賠償金計約8億8000万円についての日米分担割合の協議が難航している。外務省などは米側に分担を求めているが、同基地をめぐる騒音訴訟のなかで、米側は「米軍機の飛行は日米地位協定の賠償金分担規定に該当しない」という考えを示している。

■家庭暴露

日本では,家族暴露につきアスベスト製品製造メーカーに製造物責任を追及して提訴した事例はまだ知られていないが,労働者の雇用主に対して損害賠償請求した訴訟が何件が見受けられる。この点が争われたM事件では,原告らの被相続人であるAが死亡したのは,石綿製造企業である被告のもとに勤務していた亡Aの父親Bが持ち帰った作業衣やマスクに付着していたアスベスト粉じんを吸入した結果,悪性中皮腫となり死亡したとして,被告には,石綿の危険性について従業員に対して徹底した安全教育等を行い,従業員がマスクや作業着を持ち帰ることによりその家族の健康が害されるのを防止すべき注意義務を怠った過失があるとして不法行為責任を追及したのに対して,1審(④判決),2審(⑥判決)ともに,亡Aの死因が悪性中皮腫によるものかは断定できないうえ,仮に亡Aの死因が悪性中皮腫であり,かつ,亡Aが石綿の家庭内暴露を受けたこととの間に相当因果関係があるとしても,被告にはその当時,家庭内暴露による従業員の家族の健康被害発生の危険性の予見可能性がなかったとして,責任を否定している。また,悪性中皮腫に罹患した元従業員に対する安全配慮義務違反の法的責任を認めたN事件⑯判決も,家族暴露については被害発生の予見可能性がなかったことを理由に責任を否定している25)。被害者がアスベスト疾患であることが判明した場合で,かつ,家庭内暴露以外にアスベスト粉じん暴露が考えられない場合には,作業着へのアスベストの付着等がアスベスト疾患の原因と推定されよう。したがって,この場合の問題の焦点は,アスベスト企業における家庭内暴露による被害発生の予見可能性の問題となる。