アスベスト(石綿)は、天然の繊維状の鉱物で、熱や摩擦に強く、丈夫で変化しにくいという性質を持っているため、耐火、断熱、防音などの目的で、建材などに利用されてきました。アスベストは、クリソタイル(白石綿)、クロシドライド(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、トレモライト、アンソフィライト、アクチノライトの6種類があります。アスベストの繊維はとても細かく、飛散したアスベストを吸い込むと肺がんや中皮腫などの病気の原因となる可能性があります。主に、アスベストを使用した建築物を取り扱う現場で作業を行う人に大きな影響をもたらします。そのため、労働安全衛生法執行令が改正され、平成18年9月1日からアスベストが全面禁止とされました。石綿及び石綿をその重量の0.1%を超えて含有するすべてのものの製造、輸入、譲渡、提供、仕様が禁止されています。しかし、アスベストの使用を禁止とする以前に建築された建物はアスベストを使用していることが多く、リフォームや解体を行う際に、アスベストの飛散の懸念が大きくあります。そのため、それに該当する作業を行う際は、あらかじめアスベストの使用の有無を調査する必要があります。石綿などの使用の有無を書面調査、目視調査を実施し、それでは明らかとならなかったときには、分析調査を行うか、石綿を含有するものとして取り扱うことになります。また、アスベストが使用された建築物を取り扱う作業を行う際は、「石綿取扱い作業従事者の特別教育」、または「石綿作業主任者」の講習を受ける必要があります。これらの講習は、アスベストによる健康被害を発生させないために受講するものです。また、アスベスト解体工事にあたっては、最安値などをうたった広告をよく見かけますが、その場合は解体労務費用のみの価格であり、廃棄物処理費や廃棄物運搬費、足場・養成費用などは削られていることが大半と考えた方がいいです。アスベスト解体工事を依頼する際は、必ず現地調査をして正確な見積もりを出してもらったうえで検討することをおすすめします。
■アスベストに関する関係法令
・労働安全衛生法(抜粋)
(製造等の禁止)
第55条 黄りんマツチ、ベンジジン、ベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずる物で、政令で定めるものは、製造し、輸入し、譲渡し、提供し、又は使用してはならない。ただし、試験研究のため製造し、輸入し、又は使用する場合で、政令で定める要件に該当するときは、この限りでない。
・労働安全衛生法施行令(抜粋)
(製造等が禁止される有害物等)
第16条 法第五十五条の政令で定める物は、次のとおりとする。
四 石綿
九 第二号、第三号若しくは第五号から第七号までに掲げる物をその重量の一パーセントを超えて含有し、又は第四号に掲げる物をその重量の〇・一パーセントを超えて含有する製剤その他の物
■アスベスト解体業者の選定ポイント
①資格保有者がいる業者であること
アスベストを使用した建築物を解体するにあたっては、まず事前調査が必要となります。アスベスト有無の調査には、資格は必ずしも必要ではありませんが、厚生労働省から出された石綿指針では、「アスベストに関し広い知見を有する者」とされ、「石綿作業主任者」や「アスベスト診断士」が例示されています。事前調査は、二段階あり、書面調査と現場調査があります。事前調査の第一段階は、書面による調査になります。詳細調査を行う前に、図面などの書面や発注者や工事関係者からのヒアリングから石綿の使用の有無に関係する情報を聞き取ります。主に、建築物の名称や所在地、構造、設計者、施工者、工事管理者、施工年月日、調査対象とされている項目や、劣化現象の有無、改修履歴、周囲の地域や環境などを把握します。それによって、現地にての調査を効率的かつ漏れがないよう行います。第二段階では、書面調査をベースに現地にて目視調査に入っていきます。目視調査では、内装や下地の内側など、外観からでは直接確認できない部分を含め、建材の使用箇所に漏れがないように注意します。既存塗膜の劣化状況を把握し、その原因調査、既存塗膜の付着の強さの確認、コンクリートの調査を行います。
【アスベスト調査に関係する資格】
1.「石綿作業主任者(厚生労働省)」
アスベスト(石綿)を製造または取扱う作業の主任者で、労働安全衛生法に定められた作業主任者(国家資格)のひとつであり、事業者により選任され、石綿による身体的な被害防止の指揮・監督を行うとしています。
2.「アスベスト診断士(一般社団法人 JATI協会)」
アスベスト(石綿)に関する広範な基礎知識を有し、既存建築物等に使用されている石綿の調査や安全な取扱いに関して適切なアドバイスを行える人材であることとし、アスベストが使用されている場所の判断や使用されているアスベストの処理要否判断、アスベスト含有製品等の処理工事に関する、適正工事のチェック診断を行うことが主な役割とされています。
3.「建築物石綿含有建材調査者(国土交通省)」
建築物の通常の使用状態における石綿含有建材の使用実態を的確かつ効率的に把握するため、中立かつ公正に正確な調査を行うことができる人材としています。最近では主に重要視されている資格です。
4.その他
・酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者(厚生労働省)
・高所作業者運転特別教育(厚生労働省)
・作業環境測定士(厚生労働省)等
②現地調査をして正確な見積もりをとること
文頭に記載したように、アスベスト解体工事にあたっては、最安値などをうたった広告をよく見かけますが、その場合は解体労務費用のみの価格であり、廃棄物処理費や廃棄物運搬費、足場・養成費用などは削られていることが大半です。解体工事費用の目安は、解体する建物や構造、敷地面積、立地などによって異なってきます。敷地にトラックや重機が入ることができるか、足場は組めるかなどの近隣状況や、建物が木造か鉄骨かなどによって異なってきます。また、アスベストは発じん性によってレベルが3段階に分類されます。その分類されたレベルによって解体工事の難易度が変わるため解体工事費用も異なってきます。そのため、アスベスト解体工事を依頼する際は、必ず現地調査をして正確な見積もりを出してもらったうえで検討することをおすすめします。
■アスベスト除去工事にあたって必要な届出
上記で述べたようにアスベストは発じん性によってレベルが3段階あります。その3段階のレベルの危険性に合わせて届出が異なってきます。
・危険性レベル1
工事計画届
建築物解体等作業届
特定粉じん排出等作業届書
建設リサイクル法の事前届
・危険性レベル2
建築物解体等作業届
特定粉じん排出等作業届書
建設リサイクル法の事前届
・危険性レベル3
事前調査を行う必要があるが届出は不要
危険レベル3ではアスベスト除去工事に関する届け出は不要ですが、解体する建物が条件に該当するのですあれば、建設リサイクル法の事前届、建築物解体等作業届を掲出しなくてはいけません。
・労働基準監督署に届け出するもの
工事計画届(工事開始14日前まで)
建築物解体等作業届(作業前)
・都道府県庁に届け出するもの
特定粉じん排出等作業届書(工事開始14日前まで)
建設リサイクル法の事前届(工事開始7日前まで)
■アスベストを含む廃棄物について
アスベストを含有した廃棄物は、大きく分けて「廃石綿等」と「石綿含有廃棄物」の2種類に区別されます。特に、飛散性の石綿を含む廃棄物である「廃石綿等」は、「爆発性、毒性、感染性その他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有する廃棄物」とされる特別管理産業廃棄物に該当し、通常の廃棄物よりも厳しい基準が設けられています。
【廃石綿等の定義(環境省の石綿含有廃棄物等の適正処理について引用)】
廃石綿等とは、次に掲げる①~⑤をいう。
① 建築物その他の工作物(以下「建築物等」という)に用いられる材料であって
石綿を吹き付けられたものから石綿建材除去事業により除去された当該石綿
② 建築物等に用いられる材料であって石綿を含むもののうち石綿建材除去事業
により除去された次に掲げるもの
イ.石綿保温材
ロ.けいそう土保温材
ハ.パーライト保温材
ニ.人の接触、気流及び振動等によりイからハに掲げるものと同等以上に石綿
が飛散するおそれのある保温材、断熱材及び耐火被覆材
③ 石綿建材除去事業において用いられ、廃棄されたプラスチックシート、防じん
マスク、作業衣その他の用具又は器具であって、石綿が付着しているおそれの
あるもの
④ 特定粉じん発生施設が設置されている事業場において生じた石綿であって、集
じん施設によって集められたもの
⑤ 特定粉じん発生施設又は集じん施設を設置する工場又は事業場において用い
られ、廃棄された防じんマスク、集じんフィルタその他の用具又は器具であっ
て、石綿が付着しているおそれのあるもの
【石綿含有廃棄物の定義(環境省の石綿含有廃棄物等の適正処理について引用)】
石綿含有廃棄物とは、次に掲げる①及び②をいう。
① 石綿含有一般廃棄物
工作物の新築、改築又は除去に伴って生じた一般廃棄物であって、石綿をその
重量の 0.1%を超えて含有するもの
(参)規則第 1 条の 3 の 3
② 石綿含有産業廃棄物
工作物の新築、改築又は除去に伴って生じた廃石綿等以外の産業廃棄物であっ
て、石綿をその重量の 0.1%を超えて含有するもの
■「廃石綿等」の処理基準について
・収集・運搬
令第6条の5第1項第1号にて「運搬車及び運搬容器は、廃棄物が飛散し、及び流出し、並びに悪臭が漏れるおそれのないものであること」などとされ、特別管理産業廃棄物に共通の基準が適用されます。
・中間処理
令第6条の5第1項第2号トにて、廃石綿等の処分又は再生の方法は、廃石綿等を溶融設備を用いて石綿が検出されないよう溶融する方法又は無害化処理(法第15条の4の4第1項の認定を受けた者が当該認定に係る処分を行う場合に限る。)とされています。
特別管理産業廃棄物の処理施設において、適正な処分又は再生を行うためにやむを得ないと認められる期間を超えて保管を行ってはいけません。
・埋立処分基準
「溶融又は無害化処理した場合」と「廃石綿等を直接埋立処分する場合」があります。「溶融又は無害化処理した場合」は、通常の産業廃棄物の処分基準が適用されます。埋立処分の基準としては、溶融又は無害化処理(溶融の場合)の方法により生じたばいじんについては、溶融若しくは無害化処理の方法により処理され、又は石綿が飛散しないようセメント固化されていることとされています。また、海洋投入処分は禁止とされています。「廃石綿等を直接埋立処分する場合」は、特別管理産業廃棄物としての処分基準が適用されます。埋立処分の基準としては、大気中に飛散しないように、あらかじめ固型化、薬剤による安定化等の措置を講じた後、耐水性の材料で二重に梱包し、産業廃棄物処理施設である最終処分場のうちの一定の場所において、かつ、当該廃石綿等が分散しないように埋立処分する必要があります。「廃石綿等を直接埋立処分する場合」についても、「溶融又は無害化処理した場合」と同様に海洋投入処分は禁止となります。
■まとめ
アスベストはアスベストを取り扱う業者のみならず、近隣の住民やその廃棄物の処理の仕方によっては、関係のない人たちにも悪影響を与える危険な物質です。それを適正に処理するには、専門的な知識や資格、実績をもった業者の対応が必要となります。アスベストを使用した建築物の解体にあたっては、専門的な資格をもった業者による事前調査を行い、適切な見積をとる必要があります。また、見積の内容も細かく提示してもらい、労務費用以外に廃棄物処理費や廃棄物運搬費、足場・養成費用が含まれているか確認をしてください。含まれていない場合は、「廃棄物の不法投棄」といった環境問題および、その不法投棄周辺に住んでいる方々に悪影響を与えることになります。アスベスト除去にあたっては、各地域にて助成金が出されていることが多くあるため、各自治体に相談してみてもいいかもしれません。日本環境エンジニアリングにても、豊富な経験と事例から、アスベストに関する相談をお受けしております。ご不安な点などございましたら、いつでもお問い合わせください。